DISCOGRAPHY

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11th ALBUMDOWN BY THE MAINSTREET

SECL-3011
1999/09/08 REMIX AND MASTERING
1984/10/21 released


  • 01MONEY
  • 02DADDY'S TOWN
  • 03DANCE (Album Version)
  • 04SILENCE
  • 05EDGE OF THE KNIFE
  • 06MIRROR
  • 07A THOUSAND NIGHTS
  • 08HELLO ROCK & ROLL CITY
  • 09PAIN
  • 10MAINSTREET

洋画の映画看板をモダンにしたようなペインティングのジャケット。シンプルな英語で統一された曲名。オリジナルアルバムの中では、異色の一枚。これからどんな物語が始まるのか。センチメンタルなラブストーリーだろうか。そんな思いで針を落とすと……。

 『HOME BOUND』『愛の世代の前に』『PROMISED LAND~約束の地』の3枚のアルバムを作って、ひとつの章が終わった感じがしました。だから、そのあとすぐ新しいオリジナルアルバム制作に入れる気がしなくて、バラードアルバム『SAND CASTLE』を制作しました。
 そして、新しいオリジナルアルバムの制作に向かうにあたって、デビューアルバムである『生まれたところを遠く離れて』の後に作っておかなければいけない歌があったんじゃないかということが心にあったんです。
 70年代、2枚目の『LOVE TRAIN』から『君が人生の時…』まで、ポップなアルバムばかりで職業作家のような曲の作り方をしていたんですよね。
 そうではなく、俺自身と同じように地方都市で育った少年達の等身大の歌―文化というのはだいたい大都市やメディアから発信されるけど、そうしたものに対するカウンターカルチャーとして、地方都市に住む少年達の歌を作ろうと思ったんです。
 80年代前半は、年間150本近くのライブをやっていて、1年中地方を回っていた。各地の観客の前で歌い、それぞれの街の人達と一緒にステージを作っていく中で、そうした意識が強くなったというのもあります。
 ただ、自分自身はもう少年ではないので、映画のプロデューサーや脚本家のような気持ちで物語を描いて、そのサウンドトラック盤を作るような歌作りをしました。
 たとえばスーザン・E・ヒントンの小説を映画化したフランシス・フォード・コッポラ監督の『アウトサイダー』や『ランブルフィッシュ』のような、“COMING of AGE MOVIE”=少年の成長物語を描いた映画のサウンドトラック。
舞台は、俺が10代の時に過ごしていたような地方の工業都市。
 主人公は、そこに母親と兄貴と3人で暮らす少年。
 物語はその主人公の心の叫びで始まるんだけど、「MONEY」という曲は最初、お金が欲しくて、つまらない強盗事件のようなものを起こして追われている少年を描こうと思ったんだよね。でも、途中で「うーん、さすがに強盗はないよな」と思って(笑)。
 アルバムの中には、いろいろなキャラクターが登場します。
当時地方都市にたくさんいた、バイクに乗って暴れているような少年達。大都市に出ていき、ラッシュ時の地下鉄に乗って仕事に通う主人公の友人。恋人と別れた兄貴。街に演奏旅行でやってくるロックバンド……。
 ラストの「MAINSTREET」は、映画のエンディングのタイトルバックに流れる曲のイメージ。“この町のメインストリート”と語りはじめた物語が、この曲で終わる。アルバム1枚が、そういう構成になっています。
 曲作りをするときに俺はいつも、ほかの人があまり作っていない、自分にしか書けないようなテーマの歌を書こうと思っています。
 「MONEY」という曲を作ったのも、日本ではお金を汚いものとして捉える傾向があって、今でもそうだけど、日本の音楽シーンにはお金について歌った曲がほとんどない。だからお金のことをテーマにした歌を作ろう、しかも綺麗に歌うものじゃない曲を作ろうと思った。
 バブルが始まるのは80年代後半だけど、理屈じゃなくて、これからバブルのようなものが始まるという「なんかみんな金の匂いに敏感だよな……」という感覚がありました。……で、そういう発想になったんじゃないかな。
 自分も当時は飲んだことなかったけど、ドン・ペリニヨンなんてバブルの象徴みたいなシャンパンだよね。最近のヒップホップ系の連中が成功の象徴としてラッパ飲みしているのはクリスタルだったりするけど(笑)。
 それから、これは余談っぽくなるけど、“プール付きのマンション”という歌詞について、ここで言っておきたい(笑)。日本の人はよく「どんなとこに住んでるの?」と聞かれて「マンション」とかって言うけど、“mansion on the hill”って言葉があるように、マンションというのは、本来はビバリーヒルズとかに建っているベッドルームが10部屋くらいある豪邸のことなんだよね。
 向こうの人は自分で「マンション(豪邸)に住んでいる」って言わないよ。自分のことを「俺って大金持ちだぜ!」と言っているようなものだから。だから、「MONEY」を聴くときには、ちょっと高級な集合住宅にプールが付いているイメージではなく、そういう豪邸をイメージしてください(笑)。
購入した集合住宅ならコンド(コンドミニアム)、賃貸ならアパートメントだね。ポイントは“最高の女とベッドで〜”と“まるで悪夢のように〜”のとこだよ(笑)。
 話を曲作りに戻すと、「DANCE」にしても、基本的にポップミュージックってダンスミュージックなんだけど、当時はまだライブで「土曜の夜と日曜の朝」や「今夜こそ」のような曲を演奏しても、観客が踊るようなことはほとんどなかった。
 R&Bやロックミュージックって、ゴスペルから始まって、それがブルースのような労働歌や恋歌になって、やがてR&Bになってロックになって……というように、基本的にダンスミュージックなんです。もっと遡ればビッグバンド時代のチャールストンとか。
 でも、日本にはそういったものが、基本的に聴く音楽として入ってきて、踊るためのものとしては受け取られていなかった。そんな状況の中で俺は「ダンスミュージックって楽しくない?」「踊らない?」って、そういう曲を作ってステージでやり続けてきたんだよね。
 そして、70年代までのダンスミュージックって基本的に商業的な明るい音楽だった。でも、80年代になると「ただ明るく踊ってるだけではいられないよね」というムードも感じられるようになった。
 だから「DANCE」は、あえて「明るく踊るのではないダンスミュージックを」と意識して作りました。
 レコーディングは、初めて旅をしている仲間達と一緒にやりました。『SAND CASTLE』までは、サウンドプロデューサーを立てて、スタジオミュージシャンがクオリティーの高い音を作って、それをツアーバンドのメンバーがコピーしてステージをやっていた。
 でも、さっきも言ったように、その頃すごくたくさんコンサートツアーをやっていて、バンド仲間との時間も多くて、これだけ一緒にいるんだからバンドでレコードを作るべきだ、そうすればきっとミュージシャン達も喜んでくれて、自分達で作った音だからステージもいい雰囲気になるだろうと思ったんです。
 曲ごとにメンバーに編曲を振り分けて、「SILENCE」や「EDGE OF THE KNIFE」とかR&Bっぽいものも多いけど、時代的にはパンクやハードロックの影響が残っていたり、いろいろなものが混ざったサウンドになっている。
 最初は河口湖スタジオで合宿だったし、ツアーバンドでやるのが新鮮で楽しいレコーディングでした。その雰囲気が出たバンドサウンドになっているんじゃないかな。
 ただ、みんな若いライブミュージシャンだったので、レコーディングのノウハウ的なものやスキルにもの足りない点があって反省点も多くある。俺自身も初めてのセルフプロデュースだったし。今思えばこれも再び習作時代の作品といえるかも。

(インタビュー構成/古矢徹)

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