DISCOGRAPHY
13th ALBUMCLUB SURF & SNOWBOUND
SECL-3014
1987/06/28 released
(CLUB SNOWBOUND released on 1985/11/15,CLUB SURFBOUND released on 1987/06/28)
- 01二人の夏
- 02GEAR UP 409
- 03LITTLE SURFER GIRL
- 04曳航
- 05プールサイド
- 06HOT SUMMER NIGHT
- 07HARBOR LIGHTS
- 08CHAMPAGNE NIGHT
- 09SNOWBOUND PARTY ―Tonight Visitors OK!―
- 10MIDNIGHT FLIGHT ―ひとりぼっちのクリスマス・イブ―
- 11SNOW ON THE ROOF ―Just Like You And Me―
- 12SENTIMENTAL CHRISTMAS
バンドメンバーへの恩返しの意味もあって作られた“波と雪”のアルバムは、実は隠れた名曲ぞろい。古村敏比古作曲「HOT SUMMER NIGHT」、板倉雅一作曲「HARBOR LIGHTS」は1988年の渚園でも披露されました。「HOT〜」では、さりげなく(いや、存在感ありありに)古村さんがバッキングボーカルも!
CDの曲順では『CLUB SURFBOUND』が前半になっているけど、作ったのは『CLUB SNOWBOUND』のほうが先で、俺はビーチ・ボーイズやフィル・スペクターなどのウォールオブサウンドがすごく好きだから、そんな音のアルバムを作りたいと思って、クリスマスソングにかこつけて遊んだんだよね。
そして、長くやってきた町支や板倉雅一くんというバンド仲間をフィーチャーするアルバムにしたいと思ったんです。だから全曲、ボーカルアレンジは町支、編曲は板倉くん。
『CLUB SNOWBOUND』の5曲は、たしか1日でリズムトラックを録り終えました。ア・カペラの曲がひとつあるから、4曲のリズムトラック。ほとんどの曲がテイク3くらいという、ものすごいラフな、乱暴な感じで(笑)。
ボーカルも少々のピッチのズレなんか気にせず録って、ビートルズが60年代に1日でアルバムを録音して最後は声が枯れていた——みたいな、そんな感じの楽しさや勢いがあると思う。
町支がメインボーカルをとって俺がバッキングボーカルという「SNOW ON THE ROOF — Just Like You And Me —」という曲なんか、めちゃくちゃ楽しかったね。「こんな楽しいことを町支は独り占めしてたんだ! 俺にもやらせろ!」って(笑)。彼と俺の声は、コーラスで混ざるとどっちがどっちの声か自分達でもわからなくなるんだよね。
作ろうと思ったきっかけについて、ライナーノーツに自分でこんなことも書いている。
1984年の12月24日と25日に福岡サンパレスでライブがあって、イブの夜、ライブは盛り上がってバンドはみんな街に出たけど、俺は次の日もステージがあるのでホテルに残りベッドに入った。
でも、眠れずにホテルの近くのカフェバーへ行ってひとりカウンターでジントニックを飲んでいると、店の奥ではドレスアップした20代になったばかりに見える男女が盛り上がっていた。
そこで自分のみじめだった学生時代と今夜のひとりぼっちの状況を身につまされ、どこかの、ひとりぼっちの誰かさんのためにクリスマスの歌を作りたいと思った——。
クリスマスの時期って、みんながハッピーな時期だよね。でも、周りの人達や街がハッピーであるからこそ、孤独を感じる人が同じくらいたくさんいると思う。そんなイメージで「MIDNIGHT FLIGHT — ひとりぼっちのクリスマス・イブ —」や「SENTIMENTAL CHRISTMAS」を作りました。
福田くんが俺の作品に初めて参加してくれたのもこのアルバム。当時彼はシンセの音色ソフトを開発していて、たぶん水谷さんの紹介もあって参加してくれたんだと思う。当時、録音のときには会っていなくて、それから何年も経って、1998年から一緒にツアーをやることになったんだよね。
そして、『CLUB SNOWBOUND』の流れから、2年後に作ったのが『CLUB SURFBOUND』。
前作では町支と板倉くんをフィーチャーしたけど、今度は“J.BOY”ツアーというすごく長いツアーで苦楽を共にしたメンバー全員をフィーチャーするアルバムを作りたいと思いました。
いつも俺の曲を演奏してくれているので、今回はそれぞれに曲を書いてもらって俺が詞を書いて、メンバーの創造性みたいなものが十分に発揮されて、彼ら自身もハッピーになるような、そんなアルバムを作りたい、と。
メロディーをもらって、それをもとに書いた人それぞれのイメージに合わせて歌詞を書きました。あとは、それぞれがそのときつきあっていたガールフレンドを思い浮かべて書いたり。町支は、奥さんになる人と一緒に広島に里帰りさせている(笑)。
みんないいメロディーを書いているし、それぞれが自分の曲のサウンドプロデュースもしていて——自分が作曲してサウンドプロデュースもしてミックスダウンまで関わるというのは、たぶん彼らにとって初めてのことだったんじゃないかな。
それが今や、たとえば梁くんなんて日本で活躍するだけじゃなく、韓国で国民的音楽家になっていたりするし。みんな、このアルバムでの経験が自分の音楽を作っていくきっかけになってくれていたらいいなあと思います。
今思えば、Fairlifeの逆バージョンみたいな感じでもある。メロディー自体にタッチはしなかったけど、Fairlifeの歌詞のときと同じように「こことここのメロディーをつなげて、こういう構成にしたらいいんじゃないか」と提案したり。
『CLUB SURFBOUND』についても、ライナーノーツにこんなことを書いているよね。
中学2年のとき、家は海から40〜50mのところにあって、夏休みになると夕日が島影に落ちるまで、海で遊んでいた。初めてギターでコピーしたのはビーチ・ボーイズ「Then I kissed Her」だった。
ひとつ上の姉に、彼らが着ていたブルーの縦縞のシャツを作ってくれとせがんで困らせた。彼女は同じ柄の生地がないので、カーテン用の布で縫ってくれたが、ストライプの幅が広すぎてがっかりした。それでも気に入ったのか、白いトレーニングパンツと一緒によく着ていた——。
「Then I kissed Her」は、R&Bの女性ボーカルグループ、ザ・クリスタルズの曲(※オリジナルのタイトルは「Then He kissed Me」。プロデューサーはフィル・スペクター)のカバーだね。
ただ、何度か話しているように、“J.BOY”ツアー中に父がずっと闘病生活をしていて、当時の自分自身の状況は『CLUB SURFBOUND』の曲やサウンドとはかなり違っていた。なにしろ、メンバーが東京でレコーディングをしているときに、俺は葬儀で瀬戸内の海辺の父の家にいましたから。
たとえば……「GEAR UP 409」に“東名を西へ ひたすら走るのさ”という歌詞があるけど、あれは父の棺を乗せて故郷に帰るときにインスピレーションを受けたものなんです。
悲しいから明るい曲を作ろうと思ったんだよね。最後に口笛のような「われは海の子」が入っているのも、そういうバックグラウンドがあったから。アルバムの明るさや楽しさと反対に、実は自分としては切なく悲しい思い出のある作品です。
(インタビュー構成/古矢徹)