DISCOGRAPHY

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15th ALBUMWASTED TEARS

SECL-3016
2003/09/26 REMASTERING
1989/09/01 released


  • 01LONELY ―愛という約束事
  • 02SILENCE
  • 03BREATHLESS LOVE
  • 04悲しい夜
  • 05ロマンスブルー
  • 06MIDNIGHT FLIGHT ―ひとりぼっちのクリスマス・イブ
  • 07傷心
  • 08もうひとつの土曜日
  • 09ラストダンス
  • 10防波堤の上

大人のラブソング集で影の部分が大きい印象も強いが、マイナーキーの曲は多くない。本人曰く「痛い」歌詞にしても、聴く側の気持ちによって痛さにどっぷり浸ることも出来るし、軽く体を揺らすことも可能。コンサート会場のCD販売では今も最上位に近い売れ行きだという。

 “WASTED TEARS”というのは俺の造語。英語でそういう言い方があるのか、調べたこともないなあ。無駄に流した涙、報われない涙。そんな意味の造語です。
 1983年にセルフカバーアルバム『SAND CASTLE』を制作した。作ったあとに「いいアルバムだ」という確信が徐々に大きくなりました。
 そこから『DOWN BY THE MAINSTREET』『J.BOY』『FATHER’S SON』という、3部作ともいえるオリジナルアルバムを作り終えて、気持ちとしてはひとつのことをやり遂げた感じがあって、すぐに次のオリジナルアルバムの制作に入れる気がしませんでした。
 そんなときに、『SAND CASTLE』のコンセプトを発展させてみたら面白いのではと思ったんです。前作は20代の主人公達のラブソング。だったら、新しく作るこれは30代の主人公のものにしようと。年齢を重ねた分、『SAND CASTLE』よりずっとダークで重いトーンなんですけど、あえてこういう選曲にしました。
 改めて曲を見ると、メロディーやサウンドはダークで重いものばかりではないんだけど、やっぱり歌詞は痛いよね。
 星勝さんと再会したアルバムでもある。ただ、再会といっても一緒にやったのは1977年のシングル「木枯しの季節/独りぼっちのハイウェイ」だけだったから、初めて一緒にやった感じに近い。
 オリジナルアルバムのサウンドプロデュースは水谷公生さんだったり、ツアーを共にしているバンドと俺とでやっていたけど、『SAND CASTLE』は佐藤準さんに担当してもらいましたよね。
 これも同じようにテーマのあるアルバムだったから、これまで本格的には一緒にやっていないプロフェッショナルなサウンドプロデューサーと作りたいと思って、鈴木さんとも親交の深い星さんにお願いしたんです。
 星さんのアレンジは色合いが濃く深いという印象があって、このアルバムにもぴったりの人選だと思いました。
 1曲目の前にオーバーチュアとして、美しい弦のオーケストレーションが入っていて、今思えばそれがすごく星さんっぽく感じられるかもしれないけど、じつは最初あれはなかった。
 苦い思い出でもあるんだけど、こんなことがあったんです——。
 このアルバムの制作を終えたある日、マスタリングをした音を聴きながら、スタジオで写真撮影をしていた。そうしたら、ボーカルが聴こえてこないということに気づいた。家に帰ってもう一度聴いてみても、「やっぱりこれはボーカルのバランスがあまりに低い」と。
 工場でプレスをしている段階で、聞くところによるとすでに10数万枚はプレスし終えたところだった。それを止めてもらって、ミックスとマスタリングをやり直してから再度プレスしてもらいました。
 まあ、あとにも先にもない、前代未聞の出来事(笑)。
 そのときにオーバーチュアを入れることになったんです。ほかにも少し練られたところもあって、だから結果としてアルバムの内容はさらによくなった。
 そのときの星さんの名言。「さらにやり直せばもっとよくなるよ」って(笑)。
 基本的には『SAND CASTLE』と同じように、サウンドは星さんやミュージシャン達に任せて、俺はボーカリストとして参加するという感じに近かった。だから、サウンドに関して何か細かく言ったという記憶はないです。
 たとえば「MIDNIGHT FLIGHT ―ひとりぼっちのクリスマス・イブ」は、オリジナルがウォール・オブ・サウンドなので、このアルバムではまったく違うアプローチをしていて、音数の少ないものになっている。
 そして、ステージよりCDで聴いてもらったほうが伝わる曲というのがあって、たとえば「悲しい夜」は、そういう歌のひとつ。一度もステージではやっていないと思う。そう、ジャズテイストもある曲だよね。ファーストアルバムの1曲で、あのアルバムにはそれまで自分が好きだった、いろいろな音楽の要素が入っている。
 スタジオはソニーの信濃町スタジオ。当時、ロビーにテレビゲーム機があって、たしかもうインベーダーゲームの時代ではなくて、いろいろな形のブロックが落ちてくる……テトリス!! それをやっている人が多かった(笑)。
 でも、レコーディング自体の風景は全然憶えていない。この頃って、精神的にあまりいい状況じゃなかったんだよね。だから、記憶が飛んでしまっているようなところがある。
「僕の歌はメロディーがついているから救われているけど、歌詞だけ聴いているとホントどうしようもない奴ばかりなんですね。どうしようもない男と女。それがそのまま僕らだと思う」
 これが当時の俺の発言? その通りだねー!(笑)
「誰かを愛することって、きっと誰かを幸せにしたいっていう欲望なんだと思う。ただ心も身体もある生身の人間は、そこで自分も幸せにしたいと思う。そこで葛藤してしまう……僕の作るラブソングはたぶんそういうものだと思う」
 これも俺の発言? けっこうなこと言っとるねえ(笑)。
 でも、今思うのは、人は人を幸せにすることは出来ないということ。幸せって自分でなるものだから。人に幸せにしてもらうものでもないし、人を幸せにすることも出来ない。
 だけど、喜ばすことは出来る。その発言をした頃には、それがわからなかったんだろうね。よくあるじゃないですか。「娘を幸せにしてくれ」「はい、幸せにします!」みたいな話が。「私を幸せにして!」みたいな人もいますけど(笑)。
 そんな、スキーに連れて行くようなことと違うからって(笑)。
 そこを混同しているというか、間違っていたんじゃないかな。男性は女性を、あるいは女性は男性を、性別にこだわらず相手を「幸せにしよう」としているんじゃなくて「喜ばせよう」としているんだよね。
 幸せというのは次元の違うことで、自分で幸せになるしかない。だから、ひとりでも幸せな人はいるし、家族もたくさんいて、多くの人に愛されていても幸せではない人もいるかもしれない。

(インタビュー構成/古矢徹)

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