DISCOGRAPHY
16th ALBUM誰がために鐘は鳴る
SECL-3017
1999/09/08 REMIX AND MASTERING
1990/06/21 released
- 01MY OLD 50'S GUITAR
- 02BASEBALL KID'S ROCK
- 03少年の心
- 04青の時間
- 05サイドシートの影
- 06恋は賭け事
- 07夜は優し
- 08SAME OLD ROCK'N'ROLL
- 09太陽の下へ
- 10詩人の鐘
- 11夏の終り
いわゆる社会的なメッセージを歌った曲は「詩人の鐘」だけと言ってもいいだろう。そこで鳴るのは警告の鐘。しかし、アルバム全体に低く響くのは、すべての人を等しく救う祈りの鐘である。歌詞カードに記された、浜田省吾の訳によるジョン・ダンの詩「死にのぞんでの祈り」も印象深い。
80年代というのは、毎年ツアーをやって、すごくたくさんのコンサートをやっていた時期で、そんな中、30代の後半くらいから精神的に波があった。父を失くしたり、ほかにもいろいろなことがあって……。
『FATHER'S SON』から2年くらい経って、新しいオリジナルアルバムを作らなきゃと思うんだけど、メロディーも歌詞もまったく浮かんでこなくて、創作という点ではいちばん苦しんでいた時期かもしれません。
「夏の終り」で“潮風と波の音を枕にひとり暮そう”と歌っていて、実際にそういう気持ちになっていたんだよね。
たとえば……海辺のバーとかで、お客さんはそれぞれ会話して酒を飲んでいる。そのざわめきやグラスの音がする中、片隅でひとりのシンガーが歌っている。誰も聴いていないんだけど、俺はひとりカウンターに座って、そのシンガーの歌を聴いている、という経験が幾度もある。
そういうところにも自分の居場所があるのかもしれないなあ、と。まあ、今思えば無いのかもしれないけど(笑)。でも、そのときは真面目にそう思っていた。
かなりまいっていたんだね、ある意味。「夏の終り」や「サイドシートの影」は、当時の自分の精神状態を映している。
それは「MY OLD 50'S GUITAR」もそうだし「BASEBALL KID'S ROCK」もそうなんだけどね。シチュエーションも歌詞も違うけど、底に流れている気分は全部一緒。
『J.BOY』『FATHER'S SON』は社会的な歌も多い、どちらかといえば“外”に向かうアルバムだったと思う。そうしたテーマについては一区切りついて、次のアルバム制作に向かおうというときに、その時の精神状態もあって、“外”ではなく“内”に向かうというか、精神的なものを深く考え始めたのがこのアルバムの制作時期でした。
自分達は、歴史や社会や科学など“外”のことは学んできたけど、自分という“内”のこと、自分の心の中については何も学んでいない。怒りや悲しみ、喪失感や挫折感、自分を苦しめ落ち込ませる感情がどこから生まれてくるのか——そんなことを考えていたと思います。
ただ、それはあとから言えることで、実際の制作作業としては全く何も、メロディーの切れ端さえ出てこない(笑)。その頃、カナダとかアメリカを旅したんだけど、浮かんでくるメロディーはオールマン・ブラザーズ・バンドの「RAMBLIN’ MAN」。その1曲だけが頭の中で鳴っていた(笑)。
でもそれは、結果的にはコップに水を注いでいた状態だったんだと思う。いつもそうなんだけど、作り始めるまで苦労しても、作り始めたらすごく早い。たとえば「BASEBALL KID'S ROCK」は、たぶん20分くらいで書いた記憶があります。
自分の家の仕事部屋でギターを弾きながら作ったんだけど、「あれ、これ、もう出来たのかな!?」みたいな感じ(笑)。
ある知人とお酒を飲んでいて、その人が「土地が欲しいよなあー!」と言ったのを聞いて、「俺は違うな」と。そこから“銀行と土地ブローカーに生涯を捧げるような悪夢のようなこの国”という、「詩人の鐘」の冒頭の一節が浮かんだり。
当時の日本はバブルの絶頂の頃で、住宅ローンの金利が最高で8.9%になったりしていた時期。
「この国のいろんなことに頭に来ているって、ひとこと言ってやりたいという衝動があった(笑)」。当時、インタビューに答えてそんなことも言っていたね。
サウンドについては、シンセサイザーなどが多く取り入れられる時代になっていて、生の音、エモーショナルなものに戻りたいと思っていた。そういうサイクルがあるんですよ。新しい音を追いかけて、そこでルーツに戻って、そこからまたプロツールスとか新しい機材や技術を取り入れたくなる。そしてまたアナログなものに戻ったりと。
旅に出たときにずっと頭に流れていた「RAMBLIN’ MAN」は放浪者の歌だけど、歌詞にそんなにこだわりがあったわけではなくて、軽快な曲調やサザンロックのサウンドが好きで、結果として『誰がために鐘は鳴る』の音はロックミュージックのシンプルな趣を反映していると思います。
その頃、ブルースのレコードもよく聴いていた。だから、当時「俺独特の夏のアルバムだと思っているんだ。ブルースが聴こえる夏のアルバム……」なんてことも言っている。子どもの頃は夏は明るくて楽しい。しかし、大人になると「夏は過酷な季節」という側面が現れてくる。
「青の時間」などのアイリッシュ風なテイストは、アレンジを担当してくれた梁くんや古村が好んでいて、俺もヴァン・モリソンとかザ・チーフタンズが好きだからね。ブルースとアイリッシュ・バラードが一緒になったのがロックミュージックのルーツだというし、それぞれの好みが共振し合ったというのもある。
考えてみると、「路地裏の少年」からずっと作ってきたのは少年が一人前の大人になろうとしている歌だと思う。で、このアルバムの主人公はやっと大人になったものの迷いや悲しみの中に沈んでいる。決して明るい夏のアルバムではないし、それは隠せないですね。
作る過程においては苦労したんだけど、今でもメロディーが出来て、歌詞が全部書けたときの感覚を覚えています。初めて、こんなふうに思えたんです。
「ああ、自分はこれからいいソングライターになれるんじゃないかな……」と。
(インタビュー構成/古矢徹)