DISCOGRAPHY

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20th ALBUM青空の扉~THE DOOR FOR THE BLUE SKY~

SECL-3021
1996/11/11 released


  • 01BE MY BABY
  • 02さよならゲーム
  • 03二人の絆
  • 04彼女はブルー
  • 05紫陽花のうた
  • 06君去りし夏
  • 07恋は魔法さ
  • 08 君がいるところが My sweet home
  • 09あれから二人
  • 10Because I love you
  • 11青空のゆくえ

当時のインタビューで、90年代前半を「自分を含めて人間のやることに絶望した」とも語っていたが、今回そのことを聞くと「覚えていません(笑)」。絶妙な曲間、1曲ごとのエンディングとイントロがつながるような、気持ちのいいスピード感にあふれた全11曲。

 エンジニアのトム(Tom Lord-Alge)が「いいなあ!」と言ったのを、よく覚えているんです。
 当時の音楽シーンを思い出すと、バンドサウンドの時代だったよね。90年代はじめからニルヴァーナなどがメジャーになって、オルタナティヴとかグランジと呼ばれるワイルドで音数の少ないバンドが人気だった。
 そんな中でこのアルバムは、1曲目の「BE MY BABY」に代表されるように、音数が多くてカラフルなウォールオブサウンド。それを聴いて、トムが「時代の音とか気にせず、好きなことをやっているのっていいなあ!」って。
30代後半から40代になる頃、アルバムで言うと『FATHER'S SON』『誰がために鐘は鳴る』『その永遠の一秒に』あたりは、すごく内省していた時期だった。精神的にも少しダウンだった頃で、歌にも内省的な気配が色濃かったと思う。そして『その永遠の一秒に』を作り終えた頃から、雲が少しずつ晴れるような感じになってきた。
 そんな中で、青空や太陽が自分の人生に必要ならば、空が晴れるのを待っているんじゃなくて自分で太陽の下に出て行かなければいけない、青空のドアを自分で探して開けなければいけないという気持ちが強くなったんです。
 そして「とにかくラブソングばかりのアルバムを作ろう」と。ラブソングにもいろんな時期のラブソングがあるよね。初めて恋をした頃のラブソングとか、生涯の伴侶に出会った頃のラブソングとか。
 このアルバムのラブソングは、いろんなものを経験して、挫折して、辛い思いもしたんだけど、もう一度誰かを愛するということを信じようというラブソング。そんなテーマでアルバムを作り始めました。
 メロディーがとても気持ちよく書けたので、ドラム木村万作さん、ベース岡沢茂くん、ギター水谷公生さん、キーボード福田裕彦くんというリズムセクションと一緒にスタジオに入って、コード譜だけを渡して、その場でインスピレーションで弾いてもらって、ボーカルは「♪ラララ」でレコーディングしました。
 もちろんその時点では、たとえば「青空のゆくえ」のイントロの印象的なギターのフレーズなどはなくて、あくまでもコードとリズムのパターンだけ。当時はプロトゥールスもない時代なので、プリプロダクションというと自分でアコースティックギターを弾きながら歌ってリズムボックスと一緒にやるか、こうやってバンドとやるかしかなかったよね。
 普通のレコーディングだと一日せいぜいリズムセクション2曲くらいだけど、一日6曲ぐらいずつ伸び伸びプレイして、そのノリがすごくよかった。そしてその音を持ってアメリカに行って、それを聴きながら歌詞を書きました。
 そんな気持ちのいい状況の中で詞を書けたので、全体的に自分が思っていたような詞が出来た。「歌を作るのは楽しいな」と改めて思ったりもしたね。
 歌詞が出来上がった時点で「アレンジ、この曲はこの人が得意だろう」ということで、「さよならゲーム」は水谷さん、「紫陽花のうた」は梁くん、「彼女はブルー」は町支くん、「君がいるところが My sweet home」は古村くん、「青空のゆくえ」は星さん……というようにアレンジャーを振り分けていきました。トータルプロデュースは星さんに任せて。
 日本でリズムトラックを作って、それを持ってまたアメリカに行って、たとえば水谷さんセッションは、いいミュージシャンがたくさんいるからホーンは向こうで録ろうということで、ホーンセクションとパーカッションはL.A.で録ったりしました。
 『Home Bound』のときもそうだったけど、このアルバムに参加してくれたアメリカのミュージシャンの演奏もすごかったね。
 「君去りし夏」「あれから二人」「青空のゆくえ」で弾いてくれたギタリストのディーン・パークス(※クルセイダーズ、マイケル・ジャクソンなどの作品に参加。特にスティーリー・ダン『Aja』での彼のリズムギターとラリー・カールトンのリードの組み合わせが有名)。
 「彼女はブルー」「青空のゆくえ」で弾いてくれたマイケル・ランドウ(※ピンク・フロイド、マイルス・デイヴィスなどの作品に参加。スティーヴ・ルカサーは高校の1年先輩)。
 「さよならゲーム」「彼女はブルー」でハーモニカを吹いてくれたジミーZさんは、譜面が苦手。だから、どこから入るかわからない。こちらでキューを出して、そうするとブワーッとすごい演奏をする(笑)。
 パーカッションのルイス・コンテ(※マドンナ、パット・メセニー、フィル・コリンズなどのツアー、アルバムで活躍)。この人も有名な人で演奏はすごいんだけど、「さよならゲーム」で最初に叩いていたのはエイトビートだった。
 「ルイスさん、そうじゃなくて、これは倍の速さなんです」と言うと「ああ、そうか! そのアイデア最高だね!」みたいなコミュニケーションがあるんだけど、この人もどこから入るかがわからない(笑)。
 もちろん、ホーンの人達は、当たり前だけど、譜面は読めるどころではなく、すごい。
 そういえばトムは「紫陽花のうた」では、最後のコーラスのところでバーンとスタジオから出てきて、「お前らまるで鳥みたいだな!」と言った。その場では何を言っているのかわからなかったけど、昔のア・カペラの頃に綺麗なコーラスのことを“bird”と言う、そんな表現があるんだよね。
 だから「そのコーラスは町支っていう俺の友達がアレンジしたんだよ」なんて言った、うれしかった思い出もある。
 歌を書くことに苦しんだ30代後半から40代になる頃があって、あとから考えると、逆にその時期に大きく成長出来たのかなあと思いますね。その成長がすごく表れて見えるアルバムだと思う。
 とてもポジティヴなアルバムでたくさん好きな歌があって、今でも演奏しているよね。「君去りし夏」はステージでやっていないけど、あれは「聴く音楽」という感じがしていて、“The Moonlight Cats Radio Show”でかけたよね。
 困ったことに、あまりにこれが気に入ったために、次のアルバムまですごく時間がかかった(笑)。そのぐらい、ソングライターとして幸せな気持ちにさせてくれたアルバムです。

(インタビュー構成/古矢徹)

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