DISCOGRAPHY
21st ALBUM初夏の頃~IN EARLY SUMMER~
SECL-3022
[アナログ盤] SRJL-1002
1997/01/22 released
- 01初夏の頃
- 02街角の天使
- 03雨の日のささやき
- 04あの頃の僕
- 05グッド・ナイト・エンジェル
- 06恋に気づいて
- 074年目の秋
- 08朝からごきげん
- 09さよならにくちづけ
- 10ミス・ロンリー・ハート
- 11行かないで
- 12夢にいざなえ
いったい浜田省吾は何度「Yeah!」と叫んでいるだろう。まるでステージのようなバンドサウンド。熱く盛り上がるが、同時にリラックスもしている。70年代のみずみずしい楽曲、これまでセッションしたことのないミュージシャンとのグルーヴも新鮮で心躍る。
レコーディングしたのはソロになってちょうど20年のとき。それを口実に、いつも冗談交じりに「『君が人生の時…』までを廃盤にしたい!」と言っていた、そんな当時の音についての引っかかりにケリをつけようと(笑)。
Best of 70’sと言えるかもしれないけど、若い頃のソングライター浜田省吾が書いたポップな曲をピックアップして、セルフカバーした作品だね。
アルバムで言うと、AIDOのファーストアルバムから『君が人生の時…』までの楽曲で、今の自分には書けないであろう初々しい歌を今の音で、今の歌として届けたいという気持ちで作りました。
たとえば「初夏の頃」は、19歳とか20歳とかの浪人生時代に作った曲。その頃住んでいた町に川が流れていて、その川上に向かって自転車でひとりで走っていたときの気持ちとか、当時つきあっていたガールフレンドと川のほとりをふたりで歩いていたその風景——なんてことをスタジオでミュージシャン達に話しながら音を作っていきました。
「なんて単純な曲なんだ」と思うか「シンプルな曲だけど、思い入れのある大切な曲なんだな」と思ってくれるかで、演奏が全然違ってくるだろうからね。
いつもと違うプロジェクトで、プロデューサーは高橋信彦。個々の楽曲のサウンドプロデュースは、伊藤銀次さん、白井良明さん、土方隆行さん、斎藤誠くん、古賀森男くん、町支寛二くんという、ギタープレイヤーでありサウンドプロデューサーである人達に依頼しました。
俺はその船に乗って、気持ちよく揺られるという感じの作り方。それぞれの人が、俺の楽曲をモチーフにして自分の好きなサウンドを作ってくれて、俺はボーカリストに徹したという感じだから、肩に力が入らず楽しく歌えました。
2009年にファンクラブ限定コンサートで、このアルバムの中から「行かないで」「4年目の秋」「ミス・ロンリー・ハート」などを演奏して、改めてアレンジの気持ちよさを感じました。その後にやった“Welcome back to The 70’s”のサウンドの土台にもなりました。
たとえば土方隆行さんの「行かないで」は、絶品。俺は音色とかフレーズにZZ TOPを感じた(笑)。本人は意識してなかったみたいだけど、レスポールのあのクリーンだけど強く歪んでいる太いギターとか。彼はすごく柔軟性があって、なんでも笑って受け止めてくれる人でした。
「雨の日のささやき」などの斎藤誠くんのアンサンブルは、本当に緻密に細かいところまで計算して作っているというのが伝わってきた。彼のキラリとしたセンスを感じるし、すごくきめ細やかにひとつひとつのフレーズを構築する人なんだなあと思いました。
伊藤銀次さんのセッションでは、コレクターズの古市コータローくんや、元マイ・リトル・ラバーの藤井謙二くんなどのバンドマンともレコーディングをしました。みんな若者でね、当時(笑)。フレッシュで元気でラフでゴツゴツしていて、いいよねえ。
ちなみに「グッド・ナイト・エンジェル」の間奏の”GOD HAND”とクレジットされているギターは、伊藤銀次さんが「俺が弾いてもいいですか?」と自ら言って弾いてくれたもの。高橋が「エキストラチャージ、かかります?」と冗談で聞いたら「それは(プロデュース料金に)インクルードされています」と(笑)。
白井さんは、この中で唯一ブリッティッシュタイプのギターサウンド。「あの頃の僕」のギターソロの、オーギュメント、セブンスっていく流れのフレーズが、すごく好きですね。
「4年目の秋」の町支くんだけは何故かキーボードサウンド(笑)。
「夢にいざなえ」は古賀くん。デモテープをもらったとき、「これ、歌いきれるかな」と思ったんだけど、やってみたらすごくいい感じで。不思議なムードになっているよね。
これを作っている段階で、70年代の習作時代の作品について「サウンドの作り方を失敗したなあ」とか「これは自分らしいアルバムじゃないなあ」とか思っていたことが、もう気にならないんだなということに気づいた。
若い頃書いた詞についても、距離感があるから客観的に歌えた。あまりディテールにこだわらずに、そのときの気持ちのまま素直に書いているようなところなどは、これからも大切にしていかなければいけないし、新鮮だなと思いました。
(インタビュー構成/古矢徹)